Tuissは、英国発のオーダーメイドブラインドカーテンのブランドとして、このたび京からかみを製造・販売される山崎商店とのコラボレーションにより、からかみ文様デザインを用いたロールスクリーン・ローマンシェード・カーテンを発売しました。
平安時代から使われてきたからかみ(唐紙)には、伝統を感じさせる美しさや魅力が詰まっています。今回の記事では、同店代表の山﨑公資さんにからかみの制作工程とそのこだわりを解説いただきました。
目次
Toggle1枚のからかみができるまで
工房の作業台には、精緻な文様が刻まれた版木が並んでいます。からかみづくりはすべて、この版木から始まります。山崎商店が現在保有するデザインは200種を超え、そのなかには大正時代に作られた意匠を受け継いだものも多くあります。
からかみの最大の特徴のひとつが、「木版手摺り(もくはんてずり)」と呼ばれる技法にあります。絵具をのせた版木の上に和紙を重ね、職人が手のひらで円を描くように丁寧に撫でることで、文様を紙に写し取っていきます。機械による印刷と根本的に異なるのは、この「手で摺る」という工程です。均一に刷り込まれる印刷とは違い、手の力加減や和紙の繊維の向きによって絵具の濃淡にわずかなゆらぎが生まれ、文様がふっくらと立体的に浮き上がるような仕上がりになります。

実際に間近で触れると、表面にやわらかな凹凸があることに気づきます。目だけでなく指先でも感じられる質感こそが、からかみならではの味わいです。
からかみが1枚仕上がるまでには、いくつもの丁寧な工程が積み重なっています。まず紙に小さな穴を開け、その穴を作業台の目印の線に合わせながら「送り」の位置を正確に決めます。からかみの版木は和紙全体より小さく、横に2列、縦に6回、と位置をずらしながら合計12回版木を押すことで、1枚の紙に文様が敷き詰められます。
版木のサイズと送りの寸法は、京間の襖の規格に合わせて緻密に設計されているため、この位置合わせが一枚一枚の仕上がりを左右します。
「基本は2回押しなんです。一度刷ったあと、同じ位置にもう一度版木を当てて重ね刷りをします。紙質や絵具の重さによっては1回で仕上げることもありますが、色の深みと柄の安定感を出すためにはこの二度の手間が必要です」
熟練した職人でも1時間に仕上げられるのは2〜3枚ほど。仕事の速さよりも、刷りの精度が問われる作業です。

布海苔と雲母・胡粉 ─ 天然素材が生む表情
絵具には、今も変わらず天然素材が使われています。糊となるのは「布海苔(ふのり)」。伊勢や三重沿岸がその産地として古くから知られる海藻で、丁寧に炊き上げることで蜂蜜のように糸を引く状態になります。冷蔵庫で冷やすと寒天状に固まるこの糊を、使うたびに湯煎で溶かして少量ずつ使っていきます。
「布海苔は色落ちがいいのが重要なんです。版木を使いながらいろんな色に対応していかないといけないので、洗えばちゃんと落ちる。それが今でも布海苔を使い続けている理由です」
こうした自然由来の材料へのこだわりは、からかみ制作の核心にあります。布海苔は近年、健康食品分野などでの需要が高まったことで原材料が高騰しており、職人たちにとって材料の確保自体も大切な仕事の一部になっています。
絵具には「雲母(きら)」と「胡粉(ごふん)」の2種類があり、仕上がりのイメージによって使い分けます。雲母は鉄鉱系の鉱物で、独特の光沢を持ちます。光を受けた角度によって柄が浮き上がって見える、からかみ特有の艶やかな表情はこの雲母から生まれます。一方、胡粉は貝殻を粉末にしたもので、光沢のないマットな白の絵具として使います。
どちらを選ぶかで空間の印象は大きく変わり、光沢ある雲母仕上げは陰翳の中で柄を際立たせ、胡粉仕上げは落ち着いた静けさを空間に与えます。
絵具は顔料と布海苔を毎回その都度調合します。見本帳で「何番のスリ色で」と指定しても、まったく同じ色を再現することはできません。自然素材を手で合わせるからこそ生まれる、わずかなゆらぎ。それもまた、手仕事ならではの味わいです。

版木が語る、時代の記憶
版木は傷むまで使い続け、傷んだものは同じ意匠を引き継いで作り直します。明治時代以前は、コピー機もカーボン紙も存在しなかったため、紙に描いた下図を版木に貼り付け、それを頼りに彫刻刀で一彫り一彫り仕上げていました。
「紙は濡らすと伸び縮みするので、どうやって柄を正確に写していたのか、当時に行って見てみたいぐらいです」
欠けた箇所の修繕も、ボンドのない時代は布海苔で継ぎ材を差し込んで固定する繊細な技が使われており、古い版木を使っているとその工夫の跡が今も見えることがあるといいます。
紙の大きさが変わると、文化も変わる
明治時代以前は、技術的な限界から大きな紙を漉くことができず、版木も小判サイズに限られていました。そのため1枚の襖を仕上げるには小さな紙を縦6段・横2列、合計12枚を柄を合わせながら継ぎ合わせる必要がありました。
「明治時代に入るまで、1枚ものの大きい紙なんて存在しなかったんです。職人さんが一枚一枚丁寧に継いで、柄が合うように仕上げていました」
この「継ぎ」の美意識は、からかみの世界だけでなく茶道にも息づいています。茶室の障子は流派ごとに紙の継ぎ方に決まりがあり、千鳥貼り・石垣貼りなどそれぞれの哲学を反映した独自の作法が今も受け継がれています。余白の使い方、継ぎ目の見せ方にまで美意識が宿る。その繊細さが、日本の空間文化の本質なのかもしれません。
からかみを、より多くの手元へ
山﨑さん自身も、からかみを次の世代に届けるためのさまざまな取り組みを続けています。戦国武将の家紋を題材にした版木を新たに制作したり、本来は平面に張る素材を巻けるように工夫してからかみのロールスクリーンを試作したりするなど、伝統の枠を広げる試みを重ねてきました。
また、ポストカードサイズのからかみを販売し、手紙やメモに気軽に使ってもらうことで認知を広げる活動も行っています。
「とにかく知ってもらわないことには始まらないので」

今回のTuissとのコラボレーションでは、山崎商店の文様をプリントでロールスクリーン・ローマンシェード・カーテンの生地に再現しています。手で刷ったからかみとは製法も素材も異なりますが、山﨑さんはこう話してくれました。
「デザインを使っていただいているという認識ですので。ただ、少しでも多くの方がこの柄を目にして、『これ何の柄やろな』と思ってもらえれば成功かなと思っています」
本物の「唐紙」の代わりではなく、からかみという文化への入り口として。その思いを胸に、山﨑さんとの対話はこれからも続いていきます。
